施設の整備に際しては、実際に利用される様々な方から意見を聴き、設計や施工に反映させる取組が非常に重要であり、より良いものにしていくためにもっとも有効と思われますが、これまで、民間を含め多くの施設整備でこのような取組は、あまりなされてこなかったのではないでしょうか。
『だれもが住みたくなる福祉滋賀のまちづくり条例施設整備マニュアル』では、条例による整備基準、さらに望ましい基準に加え、より使いやすくなるように「その他配慮事項」も紹介しています。条例に沿って整備された施設でも、条例の基準は満たしているものの、使いにくかったり、もう少しの工夫でより多くの方が使えるようになったり、もっと使いやすくなる事例が見受けられます。
そこで、県は利用者意見反映の方法として、多様な人に意見を聴きながら施設整備を行い、その内容のうち一般的に知っておいていただきたい事例を選びました。配慮した事例や、よく見かける配慮が必要な事例について、「だれにもやさしい施設づくりのポイント30」としてまとめましたので、今後の設計・施工の参考としてください。
30の項目は『施設整備マニュアル』の順となっています。また、()内は『施設整備マニュアル』で対応しているページ番号と項目です。
1.移動に関する事項
敷地内通路
1 車いすの通行がしやすいように通路の仕上げは凸凹しない仕上げとし、車輪からの振動が車いすに乗っている人に伝わらないように配慮しましょう。
凸凹しない仕上げとは、仕上げ材が凸凹していないことはもちろんのこと、特に屋外の仕上げでは、目地の部分でもガタガタ振動することがありますので、
注意しましょう。 (p.64仕上げ)
振動の少ないインターロッキングブロック 石貼から アスファルト舗装に改修されたアプローチ
2 敷地内通路を、排水管のルートや中高木の近くに設けると、将来的に沈下や隆起が想定されますのでできるだけ避けましょう。避けられない場合は路盤
施工に注意しましょう。 (p.64仕上げ)
植樹枠の周囲の不陸
3 敷地内通路と車路が交差する部分をはじめ、車いすやベビーカーで通行する通路部分には、前輪が左右に取られるような、横方向への勾配を設けない
ようにしましょう。 (p.64仕上げ)
車道と同じ高さに整備された歩道 車寄せ側に傾斜していない歩道
4 点字ブロックによる誘導経路は、一般に通常使用する動線に敷設しましょう。また、敷地内入口から施設の玄関まではできるだけ直線が望ましく、玄関ド
アの中央に誘導鈴があるとさらに効果的です。 (p.65視覚障害者への配慮)
誘導鈴が設けられた入り口 玄関の真ん中に設置された誘導鈴
駐車場
5 雨天時、車いす使用者は乗降や移動の際、傘がさせないので、車いす駐車場や通路には屋根をつけ、通行に支障のないよう支柱の位置や排水溝の設
置場所には配慮しましょう。また、他の駐車区画と識別しやすいように舗装面を塗装しましょう。 (p.68庇、p.69図1)
煙突の王冠をキャストする方法
玄関横の屋根のある駐車場 屋根のある駐車場と玄関に通じる通路
廊下等
6 廊下、通路の仕上げは、毛足の長い絨毯や厚いフェルト下地では、車いすやベビーカーでの移動が大変です。タイルカーペット等、車輪が沈み込まない
ようなものにしましょう。 (p.74床仕上げ)
トイレへ通ずるカーペット仕上げの廊下
階段
7 階段の手すりには、踊り場部分に「○○階××室」等を点字で表示しましょう。また、弱視者や高齢者への配慮として、階段には十分な照明、また段鼻部 が明瞭に分かるような色彩に工夫しましょう。 (p.80照明・p.80誘導・案内標示・p.113図3)
階の案内の入った手すりの案内 段鼻が明瞭な階段
エレベーター
8 複数のエレベーターがある乗降ロビーの場合、車いす専用乗り場ボタンでは車いす使用者操作盤のあるエレベーターしか呼べないので、乗り場の呼びボタンを押すと、最寄りのエレベーターが来るようにし、待ち時間が短くなるようにしましょう。また、どのエレベーターかご内にも車いす使用者用操作盤を設けましょう。 (p.82乗場ボタン・p.85図4)
だれもが使える乗り場ボタンのEVホール
9 車いす使用者が乗り降り中に戸閉めで車輪と戸に手を挟まれないよう、戸の部分には車いすやベビーカーをはじめすべての人を感知するマルチセンサーを設けましょう。 (p.83安全な戸の開閉)
10 エレベーターのドアの色は周囲の壁と識別しやすい色とし、エレベーターの乗り場の階数表示は、弱視者や高齢者への配慮として、明瞭な色と大きさで
床面等の見やすい位置に表示し、その階を示す点字表示を押しボタン近くにつけましょう。あわせて、エレベーターかご内の操作パネルにも点字表示をつ
け、誤操作の少ない操作パネルにしましょう。 (p.83誘導・案内標示)
階数表示のあるEVホール 触ってわかるEVかご内の行き先表示
2.室内に関する事項
便所・洗面所
11 車いすからの便座への移動方法は、人によって違いますので、便器の左右および前方それぞれに車いすが寄りつける空間、正面から乗り移るための空
間を確保するよう、洗面器や備品のレイアウトも工夫しましょう。 (p.91車いす使用者便房の構造,p.188)
どのように石のメールボックスを構築する
左右両側から利用できるトイレ ×大きな洗面器が邪魔になっている例
12 多機能トイレを複数設ける場合は、多様な使い方を考慮し、同じ平面タイプのものを複数設けるのではなく、左右反転や、設備機器の種類やレイアウト
の違うタイプにしましょう。 (p.91車いす使用者便房の構造)
トイレ内の機器レイアウトが違う便房表示 左右反転プランのトイレ
13 腰掛式便器のデザインが多様化していますが、便器の前下部に寄りつきスペースが無い形状のものは、車いすのステップ部分が便器にあたって前から
寄りつけませんので、車いすでの寄り付きがしやすい便器を選びましょう。 (p.91車いす使用者便房の構造・p.94図2)
車いすが寄りつきやすい便器
14 洗浄装置(ウォシュレット)の操作部が便座の横に出ていると、正面からの便座への移動の時に障害物となりますので、壁付きのリモコンにしましょう。
(p.91車いす使用者便房の構造)
操作部を壁に設けたトイレ ×前からの移乗に支障があるトイレ
15 多機能トイレの便器に隣接する手すりの長さについては、便器より前に出るようにしましょう。便器の正面から移るためには、手すりが便器の端より手前
に出ている必要があります。 (p.91車いす使用者便房の構造・p.97図5・p187〜)
十分な手すり長さがあるトイレ ×便器の先端より短い手すり
16 多機能トイレ内におむつ替えシートを設ける場合は、使用を乳幼児だけに限定しない大人でも使える多目的シートとしましょう。
(p.91車いす使用者便房の構造,p.188)
折りたたみ式多目的シートのあるトイレ 跳ね上げ式多目的シートのあるトイレ
17 、車いす使用の方でも手すりがあれば、一般の洋式便器の便房が使える方もいますので、トイレブースまでの通路幅やブースの扉の幅などが車いすで通れるように広くとり、一般の男女トイレも車いすで使えるよう対応しましょう。
入口巾の広いトイレブースの一般便所
18 トイレ内の紙巻器(ペーパーホルダー)、洗浄ボタン、呼出ボタンのレイアウトは、JISによる配置としましょう。
(p.91車いす使用者便房の構造・p.187,p192)
JIS配列紙巻き機や操作ボタン JIS配列のレイアウト
車をペイントする方法]
19 多機能トイレの洗面の傾斜鏡は、車いす使用者以外は使いにくいので、洗面所の鏡は傾けないで、大きさ・高さをだれもが使えるよう配慮しましょう。
(p.92鏡・p.94図2)
大きめの鏡を設けた洗面
20 ベビーシート、ベビーチェアは男女便所いずれにも設置しましょう。トイレブース内のベビーチェアは、使用時に子どもがドアに指や手を挟まれないように、設置位置等に注意しましょう。ベビーベットは、おむつ替え等の時に子どもが動いても安全なように、また保護者が立つ場所が確保できるように、設置位置等に注意しましょう。 (p.92乳幼児への配慮)
トイレブース内コーナーのベビーチェア ゆとりのある広さのベビーベッド
21 トイレの入口には、内部の案内図を設置しましょう。多機能トイレの有無や男女便所の位置、洋式和式の別、便器の位置や数、ベビーチェアや多目的シ
ートの有無がわかります。図を色分けする場合は明度差にも配慮が必要です。視覚障害者にもわかるように点字や凹凸でも表示するか、音声での案内を
しましょう。 (p.93案内標示)
トイレ前の案内図 トイレ前の案内図
22 多機能トイレ内部の点字ブロックは、車いす使用者には方向転換の障害となることがあり、視覚障害のある方にも必要性は高くないので設置は不要で
す。 多機能トイレのドアノブ近くに、視覚障害者に配慮した「ブース内の便器位置」などを記した点字表記を設置しましょう。
視覚障害者に配慮した表示
観客席・客席
23 ホールなど備え付けの音響設備を設ける場所では、難聴者や補聴器を使っている人が、補聴器から鮮明な音が聞こえるように、あらかじめ磁気誘導ル
ープを床に埋め込むなどしましょう。 (p.106誘導標示)
音響設備と一体的型のループ設備 床に埋め込んだループの接続口
客室
24 聴覚障害者は、宿泊の際に万が一何かあったときの情報の入手に不安がありますので、客室内には緊急時を発光や振動で知らせる設備を設けましょ
う。 (p.109緊急時対策)
呼び鈴を発光で知らせる宿泊室 トイレ内の発光装置
3.設備に関する事項
受付カウンターおよび記載台
25 受付カウンターは、車いす使用者への配慮はもちろんのこと、松葉杖や杖を使用している方にも利用しやすいよう、高さや杖置きに工夫しましょう。
(p.115図1)
二段に整備されたカウンター 二段に整備されたカウンター
4.情報案内に関する事項
視覚障害者誘導用ブロック等
26 点字ブロックはJIS規格に定める点および線の寸法・配列による、点状タイプ、線状タイプのものを使用しなければなりません。また、弱視の方の誘導経
路にも利用されるので、床面と明度差がある色(基本的には黄色)を用いましょう。 (p.126視覚障害者誘導用ブロック等の仕様・p.127図1)
JIS規格の点字誘導ブロック JIS規格の点字ブロック
27 点字誘導ブロックの敷設位置の左右に空間が必要です。点字ブロックの活用の仕方は、ブロックの上に片方の足をかけて歩くなど視覚障害者それぞれ
によって異なりますので、右側、左側双方に50cm以上の空間を確保しましょう。 (p.126視覚障害者誘導用ブロック等の仕様・p.194)
左右にゆとりのあるブロック敷設
28 点字ブロックで右折や左折を誘導する際には、誘導ブロックの仮想延長線上には柱や壁などの障害物がこないようにしましょう。やむを得ない場合は、
少なくとも1mは離しましょう。 (p.126視覚障害者誘導用ブロック等の仕様・p.194)
曲がり角の先に障害物がない渡り廊下
案内標示
29 案内図記号はJISZ8210による記号を使用しましょう。だれもが見やすいように設置場所については天井吊下・壁面貼・突出・床置など検討し、また、天然
光や照明などのあたり具合も併せて設置位置を考慮し、わかりやすい大きさ、色合いに配慮しましょう。
全盲の視覚障害者に対しては、その施設内の簡単な間取りを示した点図を作成し、希望者に配布することが望ましいです。
(p.128案内標示の仕様、p.200、p.208)
床置きの案内板 壁に面付けされた案内板
30 案内図の内容は設置する位置を決めてから作成しましょう。前方が図の上となるように計画しないと、左右が反対で大変見づらいものとなります。
(p.128案内標示の仕様)
見る位置、色分けに配慮された案内
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